京都地方裁判所 昭和47年(行ク)2号 決定 1972年4月21日
申立人
別紙目録のとおり
山岡裕ほか七六名
代理人
若松芳也
外二名
被申立人
京都市長
船橋求己
代理人
納富義光
主文
申立人らの本件申立を却下する。
申立費用は申立人らの負担とする。
理由
一、申立の趣旨
被申立人が別紙目録記載の道路について昭和四六年一二月一三日の決定に基く歩道新設工事は本案判決が確定するまでこれを停止する。
二、申立の理由
別紙第一ないし第四のとおり
三、被申立人の意見
別紙第五のとおり
四、当裁判所の判断
本件疎明によると、本件道路を含むいわゆる寺町通歩道新設工事の設置区間は、立本寺前町より高徳寺町までであり(歩道延長1,195.7メートル、歩道幅員平均1.5メートル)、寺町今出川より北へ約二三〇メートルの間は、両側に商店が並んでいるので、東西両側に歩道を設置しそれより北へ約一、〇〇〇メートルの間(本件道路)は、西側にのみ歩道を設置し、歩行者保護のための防護柵は、全線にわたるものではなく、特別危険箇所約三七箇所に重点的に構築される計画であり、寺町今出川より北へ通じる寺町通の幅員は、狭いところで約七メートル、広いところで約八メートルであり、平均1.5メートルの歩道を設置すると、車道の幅員は、歩道両側設置のところで五メートル余、歩道西側設置のところで六メートル余となることを認めうる。
本件申立が、行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を充足するか否かについて判断する。
申立人らは「本件道路の西側にのみ幅員約1.5メートルの歩道を設置し、歩行者保護のため防護柵を構築する本件歩道新設工事の実施により、本件道路の東側の住民である申立人ら(営業者を含んでいる)にとつて、その生命、身体に対する危険が増大し、売上減少の損害が発生するから、本件歩道新設工事により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある。」と主張する。
しかし、本件道路の西側にのみ幅員約1.5メートルの歩道を設置し、歩行者保護のため防護柵を構築する本件歩道新設工事の実施により、本件道路の東側の住民である申立人らにとつて、その生命、身体に対する危険が増大するという申立人ら主張の事実については、これを認めるに足る資料がない。
本件道路の西側にのみ幅員約1.5メートルの歩道を設置し、歩行者保護のため防護柵を構築する本件歩道新設工事の実施により、仮に、本件道路の東側の営業者に一般的に売上減少の損害が発生するとしても、右損害は、当事者に受忍させることが、社会通念上相当と認められるから、右損害は、行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「回復の困難な損害」に該当しないと解するのが相当である。
上記以外に、申立人らは、行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する事実について、主張および疎明をしない。
よつて、行政処分執行停止の上記要件事実を認めえないから、その余の点の判断を省略し、本件申立を却下し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(小西勝 工藤雅史 榎本克己)